「中国語がある程度できれば、仕事でも通用するはず」――社会人になりたての頃の私は、そう考えていました。大学で中国語を専攻し、留学も経験していたため、何とかなるだろうと踏んでいたのです。
ところが、いざシンクタンクで中国語を使う仕事を始めると、その見通しはすぐに崩れました。学生時代に身に付けた中国語と、仕事で求められる中国語には大きな違いがあり、語学力以外にもさまざまな力が求められたからです。
この記事では、翻訳・校閲、現地調査、アテンドの3つの場面を通して、仕事で中国語を使って分かったことをお伝えします。
この記事の3行まとめ(AI要約)
- 仕事で中国語を使うには、中国語力だけでは足りない。シンクタンクでの翻訳・校閲、現地調査、アテンドの3場面で、それぞれ別の力が求められた。
- 翻訳・校閲では日本語力と専門知識、現地調査では事前準備と判断力が欠かせなかった。原文を正確に読み取り、伝わる言葉にする力が問われた。
- アテンドでは習慣や時間感覚の違いを踏まえた対応力が必要だった。失敗も含めた経験の積み重ねが、仕事で通用する力につながる。
中国語の翻訳・校閲

中国自動車産業に関する定期レポートの作成に携わり、その中で中国語ニュース記事の翻訳・校閲を担当しました。
中国語ニュース記事の選定から編集まで
定期レポートは自動車関連企業向けで、中国の関連政策やメーカー動向などを扱う内容でした。
【作業の主な流れ】
① 複数の中国主要メディアのWebサイトから、掲載するニュースを選定する(ほぼ毎日)
② 翻訳者に依頼する(一部は自分でも訳す)
③ 上がってきた訳文を原文と照らし合わせながら校閲する
④ 各記事の要約も作成し、編集・発行する
記事には出典のURLを載せており、中国語や業界に詳しい読者も多かったため、誤訳や解釈の間違いがないよう、毎回かなり神経を使っていたことを覚えています。
当時は自動翻訳の精度も低く、頼れませんでした。原文を読み込み、意味を一つ一つ確かめる必要がありました。
中国語力+「日本語力・専門知識」
この仕事でまずぶつかったのが日本語力の壁です。
AIや自動翻訳が発達した現在でも、中国語の原文を理解するだけでなく、それを分かりやすく伝える日本語力は欠かせないと感じています。
翻訳者の訳文は、意味が通らないものはもちろん、一見問題がなさそうな文章も必ず原文と照らし合わせ、内容がずれていれば自分で訳し直していました。しかし、意味を正確に捉えるだけでは、読み手に伝わる文章にはならなかったのです。
直訳は通用せず、自然で読みやすい日本語にしなければなりませんでした。かといって、意訳しすぎると本来の意味から離れてしまうため、正確さと自然さを両立するバランス感覚が求められました。
それでも、提出した原稿は先輩に何度も突き返されました。
「こなれた」表現って……?
自分の語彙力や表現力の乏しさを痛感し、日本語の文章力を磨く講座にも通ったほどです。
そして、もう一つの壁が専門知識です。
自動車業界だったため、製造工程や部品名など専門用語が非常に多く、インターネットや辞書で調べても見つからない単語がたくさんありました。
さらに、中国の政治・経済の知識がなければ、文章の背景や専門的な内容を正確に理解できない場面もありました。
自分で調べつつ、上司や先輩にも聞きながら、手探りで対応する日々でした。
【翻訳・校閲を通じて得た気づき】
中国語力は大前提。そこに日本語力と専門知識も加えて「伝わる日本語」にしなければ、仕事として成立しない。
中国での現地調査

中国自動車産業に関する現地調査のため、中国へ出張する機会も多々ありました。
中国人関係者へのヒアリング
現地調査の中心は、政府関係者や主要メディアの記者へのヒアリングでした。ほかに、関連施設などの視察も行いました。
基本的に通訳者の同行はなかったため、限られた時間で的確に聞き取れるよう、次のような準備を重ねました。
- 相手の経歴や発言・執筆内容などのチェック
- 想定問答の作成
- 主要な質問事項のヒアリング先への事前送信
ヒアリング中はボイスレコーダーで録音し、帰国後は繰り返し聞き直しながらまとめましたが、現地の騒音が混ざっていることも多く、聞き取りには苦労しました。
中国語力+「事前準備・判断力」
事前準備の成果は、ヒアリング本番で大きく表れました。相手について調べ、聞きたい内容を整理しておいたことで、会話の軸を保てたからです。
一方で、聞き取れない言葉や知らない用語には何度も遭遇しました。
ん?今の単語は……?
私の場合、一つ気になり始めると、その先の会話が頭に入らなくなるのが課題でした。そこで、細部にこだわりすぎず、全体の流れをつかむよう努めました。
ただ、相手の時間が限られる中、「確認すべきか」「聞き流してよいか」の判断は難しく、聞き返す範囲にも迷いました。
中国語ができる上司や先輩が一緒の場合は心強かったものの、経費節減で一人出張が増えると、その場の判断力が一層問われました。
現地で通訳者が付くケースもありましたが、政治や業界に詳しくない方だと、専門的な話が正確に伝わらないことも。結局、自分の言葉で伝え、相手の話を理解するしかなく、ここでも専門知識がものをいいました。
【現地調査を通じて得た気づき】
中国語力だけでなく、相手を理解するための事前準備と、状況を見ながらその場で判断する力が欠かせない。
中国からの視察団のアテンド

業務では、日本企業などを視察するために来日した中国人一行に同行し、サポートする機会もありました。
視察団への同行と通訳対応
視察団は、所属の異なる10名弱のメンバーから成り、ほぼ全員が責任ある立場でした。そのため、かなり気を遣いながら同行しました。
中国人の上司が通訳を兼ね、私は手伝いを任されていたため、大丈夫だろうと高をくくっていました。ところが、皆それぞれに個別で質問するため、私にも「訳してほしい」と何度も声がかかったのです。
さらに、日本側の上司や受け入れ先の方が、中国側の質問や発言への対応に困り、その場にいた私が急きょ通訳を頼まれる場面もありました。
え、今ここで私が訳すの……?
そう戸惑いながらも、必死にメモを取り、その場で中国語に訳して伝えました。ただ、口をついて出るのは簡単な表現や短い文ばかり。焦ると同じ言い回しを繰り返し、単語をつないで伝えるのが精いっぱいでした。
急な通訳対応では、仕事で求められる中国語の表現力が足りないと痛感した出来事です。
中国語力+「状況に合わせた対応力」
視察先では、日本側の担当者が時間どおりの進行を前提に予定を組んでいました。一方、中国側の方々は、疑問に思ったことはその場で確認し、関心のある場所はじっくり見て回る様子でした。
その結果、予定より進行が押して昼食時間をほとんど取れなくなり、午後の訪問時刻の変更をお願いする一幕もありました。日本側の担当者から注意を受ける一方で、中国側にも事情を伝えにくく、まさに板挟みの状況です。
どちらが良い・悪いといった話ではなく、時間や段取りに対する感覚が異なるのだと感じました。ただ、それを双方に理解してもらうのは容易ではなく、間に立つ難しさも痛感しました。
エピソード:良かれと思ったのに……
夜に居酒屋で接待した際、日本式でよいだろうといつもの感覚でビールを注いだところ、参加者の一人からけげんな表情で「泡がこんなに?」と言われ、場の空気が一瞬固まったのです。
上司が、日本では泡を適度に入れて注ぐのが一般的だと説明してくれて事なきを得ましたが、良かれと思ってしたことが相手には失礼にあたる場合もあるのだと、ヒヤッとしました。
言葉が通じても、相手の習慣や感覚も踏まえた対応力がなければ、場は円滑に回りません。
【アテンドを通じて得た気づき】
語学力に加え、臨機応変な対応力も備えなければ、良好なコミュニケーションを図れない。
仕事で使う中国語のよくある質問
仕事で中国語を使うには、中国語力のほかにどんな力が必要ですか。
翻訳・校閲では日本語力と専門知識、現地調査では事前準備と判断力、アテンドでは状況に合わせた対応力が求められました。中国語力はそれらの土台となる力です。
中国語の翻訳・校閲では、どんな点に気をつければよいですか。
訳文は必ず原文と照らし合わせ、意味のずれがないかを確認します。直訳にも意訳しすぎにも偏らず、正確さと自然な日本語を両立させることが大切です。
中国語でヒアリングを行う前には、どんな準備をすればよいですか。
相手の経歴や発言内容を調べ、想定問答を作成しておきます。主要な質問事項を事前に送っておくと、限られた時間でも会話の軸を保ちやすくなります。
まとめ:仕事で中国語を使って分かったこと
翻訳・校閲、現地調査、アテンドの体験を通じて共通して感じたのは、「中国語力だけでは足りない」ということです。
- 翻訳・校閲:専門知識で正確に読み取り、日本語力で分かりやすく伝える
- 現地調査:入念な事前準備と、その場での判断力
- アテンド:相手の立場や習慣を踏まえ、状況に合わせて動く対応力
実際に中国語を使う場面では、思うように話せず、対応に迷うこともあるでしょう。私自身、失敗や恥ずかしい思いをたくさん経験しましたが、その全てが次に生かせる学びになりました。
AIなどのツールが発達した現在でも、相手や場面に合わせて伝える力は、経験を重ねてこそ身に付くのだと感じています。


