2026年10月12日から日本テレビ系で放送が始まったドラマ『十六夜膳房』(原作:毛無/日本語版:ポプラ社)には、孟婆のほかにも、中国の死後の世界を知るうえで気になる存在が登場します。そのひとつが「白無常」と「黒無常」です。
ドラマ版では、白無常は白猫の姿で登場し、声を担当するのは渋谷凪咲さん。さらに、黄泉の食堂を統括する「閻魔王」も登場します。
中国の死後の世界に目を向けると、閻魔王だけでなく、黒白無常や判官、十殿閻羅など、さまざまな役割を持つ存在も登場します。
中国の冥界は、ひとりの王がすべてを取り仕切るというより、複数の役割を持つ者たちによって成り立つ世界として描かれてきたとされています。
この記事では、『十六夜膳房』を入り口に、黒白無常とは何者なのか、中国の閻王(阎王/Yánwáng)と日本の閻魔様にはどのような違いがあるのかを見ていきます。
この記事の3行まとめ(AI要約)
- 黒白無常(黑白无常/hēibái wúcháng)は、中国の伝承で死者の魂を冥界へ導く二人組の使者で、黒と白の対で描かれる。
- ドラマ『十六夜膳房』では、白無常は死者の思い出を集める白猫(声:渋谷凪咲さん)、黒無常は番号で呼ばれる複数の食堂スタッフとして描かれる。
- 中国では十人の王が死者を順に裁く「十殿閻羅」が知られ、閻羅王(閻魔王)はその第五殿とされることが多い。日本の閻魔信仰もこの影響を受けている。
黒白無常(黑白无常/hēibái wúcháng)とは?二人組で描かれる冥界の使者

中国の死後の世界を描いた物語や民間伝承に登場するのが、黒白無常です。中国語では黑白无常(hēibái wúcháng)と書きます。
文字どおり「黒」と「白」の無常を指し、黒無常と白無常という対になる存在として知られています。ただし、中国の民間信仰は地域や時代による違いが大きいため、すべての伝承でまったく同じ姿や役割を持っているわけではありません。
一般には、死者の魂に関わる冥界の使者として描かれます。中国の廟でも、十殿閻羅や判官、牛頭馬面(日本でいう牛頭・馬頭)などと並び、冥界で役割を担う存在として黒白無常が祀られている例があります。
黒無常と白無常は何をする存在?
黒白無常は、現世と冥界の境目に立つ存在として考えると分かりやすいでしょう。
たとえば、死者の魂を迎えに来る、魂を冥界へ連れていく、冥界の秩序を守る使者として登場するといった描かれ方があります。
よく知られる伝承では、白無常は背が高く白い衣をまとい、黒無常は背が低く黒い衣をまとった姿で描かれます。地域によっては、白無常を謝必安、黒無常を范無救という名前で呼び、白無常の帽子には「一見生財(見れば財が生まれる)」、黒無常の帽子には「天下太平」と書かれているとされることもあります。死者を連れていく恐ろしい存在でありながら、縁起のよい言葉を掲げているところに、どこか親しみも感じられます。
日本の感覚に置き換えるなら、「死神」に近く見えるかもしれません。ただし、中国の黒白無常と日本で一般的にイメージされる死神は、もともとの文化的背景が異なります。「中国版の死神」とだけ覚えてしまうと、その背景にある中国独自の冥界観が見えにくくなってしまうかもしれません。
現世から冥界へ人を導く「使者」と捉えたほうが、その役割を理解しやすいでしょう。
无常(wúcháng)が持つ意味
日本語にも「諸行無常」という言葉があるため、「無常」という漢字に見覚えがある人は多いでしょう。中国語の无常(wúcháng)にも、物事が一定ではないことや、予測できないことといった意味があります。さらに中国語では、无常が「死」そのものを遠回しに表す言葉として使われることもあります。
そして、生と死もまた、人間の思いどおりにはなりません。
いつ、どのような形で人生の終わりが訪れるのかは分からない。「無常」という名前そのものが、生と死のあいだを行き来する使者にふさわしい言葉だと感じられます。
『十六夜膳房』では白無常が猫|ドラマでは渋谷凪咲さんが声を担当
『十六夜膳房』にも、白無常と黒無常が登場します。
白無常は人間の姿ではなく白猫として登場し、渋谷凪咲さんが声を担当します。黄泉の食堂ではバイトリーダーのような立場で、客である死者について、生前の情報や食事にまつわる思い出を集める仕事をしています。
一方、黒無常は一人ではありません。
ドラマ版には「黒無常一号」「黒無常二十三号」「黒無常三号」「黒無常七十七号」といった複数の黒無常が登場します。彼らは黄泉の食堂のスタッフで、現世へ死者の魂を迎えに行き、食堂まで連れてくる役割を担っています。
公式の紹介によると、黒無常たちはもともと死者で、心残りから来世へ転生しないことを選んだ者たち。番号は、黒無常になった順につけられているそうです。
ここは、中国の伝承と『十六夜膳房』の設定を分けて考えたいところです。
伝承に登場する黒白無常をそのまま映像化したのではなく、「死者を導く冥界の使者」を生かしながら、黄泉の食堂で働くキャラクターとして再構成していると考えられます。
特に黒無常を複数のスタッフとして描く設定は、食堂という舞台にもよくなじみます。
中国文化を知ったうえで作品を見ると、「白い猫だから白無常」という見た目の面白さだけでなく、その名前の後ろにある冥界の役割まで見えてきます。
閻王(阎王/Yánwáng)とは?中国で死者を裁く冥界の王
もうひとつ、日本人にも比較的なじみがあるのが閻王です。中国語では阎王(Yánwáng)と書きます。
日本語でいえば閻魔王や閻魔大王にあたり、死者の生前の行いを裁く存在として広く知られています。
閻魔の由来をたどると、古代インドのヤマに行き着きます。その後、仏教とともに中国へ伝わり、中国の思想や民間信仰などとも重なりながら、現在知られている中国の冥界観が形づくられてきたとされています。
たとえば、冥界を意味する言葉のひとつに地府(dìfǔ)があります。
「府」という漢字からは、行政組織のようなイメージがあります。王がいて、その下に判官や使者などがいて、それぞれが役割を担っている。この構造を知っておくと、閻王や黒白無常が同じ世界に登場する理由も理解しやすくなるかもしれません。
中国の閻王と日本の閻魔様の違い

中国の閻王と日本の閻魔様は、それぞれの地域の宗教や民間信仰と結びつき、少しずつ異なるイメージが形づくられてきました。
日本では閻魔様と聞くと、死者を裁く大王を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。「嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれる」という言い伝えを、子どもの頃に聞いたことがある人もいるかもしれません。
一方、中国では、複数の王が死者を裁く「十殿閻羅」の体系も広く知られています。その周囲には判官や黒白無常、牛頭馬面など、さまざまな役割を担う存在が描かれてきました。
日本の閻魔信仰にも中国から伝わった十王信仰の影響があると言われており、近しいルーツを持つ死後の世界の考え方が、中国と日本、それぞれの文化の中で受け入れられ、現在のイメージにつながったと考えると分かりやすいかもしれません。
十殿閻羅(十殿阎罗)とは?中国の地府のイメージ

中国の冥界をもう少し深く知るうえで欠かせないのが、十殿閻羅です。中国語では十殿阎罗(shí diàn Yánluó)と書きます。
閻魔大王が一人で死者全員を裁いているという世界を想像していると、十人も王がいることを不思議に感じるかもしれません。
中国では、インドから伝わった閻羅王の信仰が、中国にもともとあった思想や道教などの影響を受けながら、十殿閻羅という体系へ発展したとされています。唐代の末ごろに中国で成立したとされる『十王経』などを通じて、死者が十人の王のもとを順に回って裁きを受けるという考え方が広まりました。
面白いのは、その中で閻羅王(閻魔王)は、第五殿の王とされることが多い点です。日本で「閻魔様」といえば冥界のトップというイメージがありますが、十殿閻羅の体系では、十人の王のうちの一人という位置づけになります。
そこでは、死後の世界にも役割分担があります。
死者の生前の行いを確認する者がいて、裁きを担う王がいて、魂を導く使者がいる。そして、最終的には次の生へ向かうという流れです。
もちろん、これは中国の長い歴史のなかで形成されてきた数ある冥界観のひとつであり、「中国人が全員この死後の世界を信じている」という意味ではありません。
むしろ興味深いのは、こうした世界観が現代の小説やドラマにも形を変えながら残っていることです。
ドラマ版『十六夜膳房』に登場する閻魔王(演:秋谷郁甫さん)は、3000もの黄泉の食堂を統括する「エリアマネージャー的存在」と設定されています。一般に想像する閻魔様とは異なり、死者の人生を判定する役目は持たないとされています。
一見すると大胆なアレンジですが、「冥界を管理する存在」という閻王のイメージを残しながら、物語の舞台である食堂に合わせて役割を置き換えたとも考えられます。
また、死者を案内する黒無常が何人も働いているという設定も、冥界にさまざまな役職が存在する中国の世界観を知ると、違った見方もできます。
ただし、これらが中国の伝承を意図して再構成したものかどうかは、制作側から明確に示されていない部分もあります。あくまで作品の設定と中国の伝承を照らし合わせた場合のひとつの見方としてとらえるのがよいでしょう。
黒白無常・閻王に関するよくある質問
- 黒白無常とは何ですか?
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中国の民間伝承や物語に登場する、黒無常と白無常の二人組の冥界の使者です。中国語では黑白无常(hēibái wúcháng)と書きます。死者の魂を迎えに来て冥界へ連れていく存在として描かれることが多く、日本の「死神」に近いイメージで紹介されることもあります。
- 白無常と黒無常にはどんな違いがありますか?
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よく知られる伝承では、白無常は背が高く白い衣、黒無常は背が低く黒い衣の姿で描かれます。地域によっては白無常を謝必安、黒無常を范無救と呼び、帽子にそれぞれ「一見生財」「天下太平」と書かれているとされますが、姿や名前は伝承によって異なります。
- ドラマ『十六夜膳房』の白無常と黒無常はどんなキャラクターですか?
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白無常は白猫の姿で、声は渋谷凪咲さんが担当しています。死者の生前の情報や食事の思い出を集める、食堂のまとめ役のような存在です。黒無常は「一号」「二十三号」など番号で呼ばれる複数のスタッフで、現世から死者の魂を黄泉の食堂へ連れてくる役割を担っています。
- 中国の閻王と日本の閻魔様の違いは何ですか?
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どちらも古代インドのヤマに由来し、死者の生前の行いを裁く存在です。日本では閻魔様が冥界の大王として一人で裁くイメージが強い一方、中国では十人の王が順に裁く「十殿閻羅」の体系が広く知られ、閻羅王(閻魔王)はその第五殿の王とされることが多くなっています。
- 十殿閻羅とは何ですか?
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死者が十人の王のもとを順に回り、生前の行いについて裁きを受けるという中国の冥界観です。中国語では十殿阎罗(shí diàn Yánluó)と書きます。インドから伝わった閻羅王の信仰が、中国の思想や道教の影響を受けて発展したとされ、日本の十王信仰にもつながっています。
まとめ|黒白無常と閻王を知ると『十六夜膳房』の世界がもっと見えてくる
黒白無常や閻王、十殿閻羅を知ると、中国の死後の世界が一人の閻魔王だけで成り立っているわけではないことが見えてきます。
『十六夜膳房』では、こうした中国の冥界文化を思わせる存在が、白猫や食堂のスタッフ、エリアマネージャーという親しみやすい姿で登場します。伝承との違いを探しながら見ることも、作品を楽しむひとつの方法です。


