一口に中国料理と言っても、種類はいろいろです。さまざまな分類の仕方ができますが、一番大きな分け方は、中国国内で食べる中国料理と、中国以外で食べられている中国料理でしょう。「ガチ中華」という言葉が象徴しているように、中国国内の飲食店が提供する中国料理は日本の家庭や飲食店で提供される中国料理とは大きな差があるからです。
今回は中国国内の食文化が近年経ている見逃せない変化について、ご紹介します。
- 中国国内の食文化は近年大きく変化しており、若い世代を中心に「健康志向・あっさり志向」が強まっている。
- 中国家庭料理は実は野菜中心の料理も多く、“食药同源(shíyàotóngyuán)”という健康を重視する伝統的な考え方が今も根付いている。
- 「ガチ中華」や中国食材店は、中国語と本場の食文化を同時に学べる実践の場としても活用できる。
変化し続ける中国料理

「中国本場の味は完成されたものだから不動だ」と思われがちですが、実際は中国の中国料理も変化しています。かつて中国で好まれていた料理は、青椒肉絲(チンジャオロース)や回鍋肉(ホイコーロー)に代表されるような、塩気が強く、たっぷりの油を用いた料理でした。しかし、今の若い人はもっと「胃に優しい」料理を好むと言われます。
原因はいくつか挙げられます。
①肉体労働の減少
かつての中国では、オートメーション化が今ほど進んでおらず、自家用車の普及率も低かったので、社会での労働や日常生活において肉体を酷使する割合が今より多めでした。たとえデスクワークでも、オフィスにエアコンなどは普及していなかったため、人々は今より頻繁に汗をかいていました。そのため、体内から汗とともに流出した塩分を補うため、塩気の強い食事が好まれました。しかし、今はオートメーション化が進み、移動も以前より楽になったため、汗をかく機会も減ったのです。
②カロリー優先
経済が今ほど成長する前の中国では、人々が食事に求めたのは何より満腹になれることでした。栄養バランスよりカロリーの補充が優先されたのです。淡泊な料理より、油っぽい料理や脂身の多い肉が好まれました。しかし飽食の時代を迎え、成人病予防に対する知識も高まった今、人々はより健康的な食事を求めるようになっています。
③スタイル維持のため
かつての中国ではスリムな体型よりふくよかな体型が高く評価される傾向にありました。相手に「太った」と言うのは誉め言葉で、ダイエットへの需要も今ほど高くありませんでした。しかし、現在は中国でもすらりとしたスタイルが好まれる傾向にあります。結果的に、摂取カロリーに配慮する人が増えました。
以上のような事情から、今の都市部の若い世代では、あっさりとしていて胃に優しい料理を好む傾向が強まっています。無糖の飲料や油分控えめの食事が好まれるようになり、食事にミネラルの豊富な雑穀などを取り入れる人が増えているのです。
中国家庭料理は野菜が多め

麻婆豆腐や青椒肉絲(チンジャオロース)から北京ダックまで、肉を使った料理ばかりが注目されがちな中国料理ですが、じつは中国の一般の家庭、とくに農村部では野菜だけを用いた料理も好まれています。中国人の食卓は海外に比べて全般的に野菜の割合が高く、肉の摂取が少なすぎると語る栄養学の専門家もいるくらいです。
都市部に住む中国人の間で “农家乐(nóngjiālè)”というツアーが人気です。 “农家乐”とは、都市部から観光や視察で農村地帯を訪れた人々に、農家に滞在しながら農村の暮らしを体験してもらうというものです。その目玉の一つは、地元の新鮮な食材を存分に使った家庭料理。当然、野菜や果物も豊富で、北方なら、とうもろこしの粉を使って作った蒸しパン、南方ならさまざまな山菜などが楽しめ、中国の食文化の奥深さ、バラエティの豊富さを感じることができます。
デリバリーで中国家庭料理

一方、現在の中国の都市部では、食事のとり方にも大きな変化が起きています。ここ数年の間に、顧客がアプリで注文すると、さまざまなタイプのレストランから注文した料理を届けてもらうことができるシステムが急速に普及しました。その結果、それまで外食した時だけに味わえていた「調味料を多用したこってり味」が自宅でも日常的に味わえるようになりました。ある分析によれば、こういったデリバリーによる外食の味付けによって舌が鈍感になった若者たちの間で、最近はかえって、淡白な味わいが人気を高めているそうです。
じつはこの食事をデリバリーしてもらえるアプリでは、家庭料理も注文することができます。アプリで検索して注文すると、料理が得意な近所の誰かが作ってくれた料理が、バイク便などで熱々のまま自宅に届くというものです。人気の高いサービスを選べば、味はある程度保証されますが、それでも自分好みの味付けの料理が届くかどうかは運次第です。
その不安定さを逆手にとり、最近注目を集めているのが「料理する人をデリバリーする」サービスです。いわば料理専門の臨時の家政婦ですが、料理を頼む前に「塩分や脂肪を控えめに」などといた細かい注文ができるのが、人気の理由です。
中国はふたたび健康重視の食文化へ

成人病予防やダイエットをめぐる意識が高まり、関連する知識も豊富になるにつれて、これまでこってりとした味つけを特色としてきた中国の食文化も変化しつつあります。
じつは最近30代前後の若者たちの間で“菜市场(càishìchǎng)”、つまり野菜市場を巡る習慣がひそかに復活しています。生鮮食品のオンライン購入が増加する傾向にある中国ですが、それでも野菜市場ではまだまだ新鮮な野菜を比較的安く手に入れることができます。野菜市場巡りが「健康的でお財布にも優しい」習慣として見直されてきているのです。
そもそもあわの粥や豆乳を取り入れた朝食、白湯を飲む習慣など、中国の飲食をめぐる文化にはとてもヘルシーな一面があります。
中国には “食药同源(shíyàotóngyuán)”という言い方があります。「健康的な食事を通じて体調を管理し、病気を予防する」という考え方を表し、日本語の「医食同源」の由来となった言葉です。今でも中国ではこの考え方が食生活の中で頻繁に実践されています。
中国では、体調が悪くなると「その症状がある時は××を食べる(飲む)といい」といった知識を生かす習慣が浸透しています。例えば夏バテ対策には緑豆などを煮た粥、冷え性対策には生姜と乾燥ナツメを煎じた茶、目の疲れを和らげるためには、菊の花の茶などが人気です。
南方では薬膳スープを作る文化も盛んで、体調に合わせ、薬剤を生姜、イチジク、長芋、鶏肉、ハト肉などと一緒に煮てスープにする習慣があります。
調味料や薬剤の香りが独特で、慣れるまでに時間がかかる場合もありますが、基本的に体調に合うスープは美味しく感じられるものです。それに冷え性や軽い風邪、夏バテなどといった、つらいけれど医者に行くほどではないといった症状を、体調に合った食事で無理なく軽減できるのは魅力的です。もともとは漢方医学の伝統が生かされた、奥の深いものですが、中国の食材を売る店などで材料が手に入れば、日本の家庭でも実践できるでしょう。
まとめ 食べて中国語を実践!
現地の中国料理の味が変化している以上、今後は日本の「ガチ中華」や中国食材の店でも健康的で胃に優しい中国料理や食材のバラエティが増えていくことでしょう。それでも本場の味はスパイスが効いていたり、基本とする調味料が違っていたりするため、好き嫌いが分かれるかもしれません。
しかし見方を変えれば、日本に居ながらにして中国の本場の食文化を体験できるチャンスは貴重です。店長や従業員が中国人であることも多いので、タイミングが合えば中国語の会話を実践することもできます。軽い挨拶だけでも構いませんし、ただ料理や食品の名前を中国語で発音してみるだけでも勉強になります。
慣れたらさらにもう一言。中国料理店なら「注文したい料理の名」や「どんな材料を使った料理なのか」、中国食材店なら、「食材はどのような料理に使うのか」などを尋ねてみると、食文化に対する理解を深めることができます。
たとえ短い会話でも、うまく自分の意思が伝われば達成感があり、会話を学ぶモチベーションも向上するはず。中国旅行を予定している場合は、予行演習にもなることでしょう。

