孟婆湯とは?中国の死後の世界と『十六夜膳房』の元ネタを解説

孟婆湯とは?中国の死後の世界と『十六夜膳房』の元ネタを解説

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2026年10月12日から日本テレビ系で放送されるドラマ『十六夜膳房(いざよいぜんぼう)』。物語の舞台となるのは、亡くなった人が訪れる「黄泉の食堂」です。そこでは孟婆(もうば)と呼ばれる料理人が、死者に「最後の一皿」を振る舞います。

「孟婆とは?」「中国に本当にある伝承なの?」と、作品をきっかけに気になった方もいるのではないでしょうか。

孟婆はドラマのためだけにつくられた存在ではありません。中国では、死者が生まれ変わる前に孟婆汤(Mèngpó tāng)を飲み、前世の記憶を忘れるという伝承が知られています。

その周辺をたどっていくと、奈何桥(Nàihé qiáo)や阎王(Yánwáng)、轮回(lúnhuí)など、『十六夜膳房』の世界をより深く楽しむための中国文化が見えてきます。

この記事では、作品のネタバレは控えめに、孟婆と孟婆湯の伝承、中国で語られてきた死後の世界について紹介します。

目次

この記事の3行まとめ(AI要約)

  • 中国の伝承では、死者は転生前に孟婆湯で前世の記憶を手放す。愛情や恨み、心残りまで忘れられる反面、大切な人や幸せだった時間まで忘れてしまう二面性があるとされます。
  • 伝承は「忘れるための一杯」、ドラマは「忘れられない一皿」。『十六夜膳房』では中村蒼さん演じる男性の孟婆が、死者の注文した人生で最も忘れられない料理を振る舞います。
  • 閻王の裁き、奈何橋、孟婆湯、輪廻という流れは一つの目安。仏教や道教、民間信仰が重なった死後観で物語ごとに描かれ方が異なり、ドラマの閻魔王も3,000の食堂を統括する存在です。

『十六夜膳房』とは?2026年10月12日スタートのドラマと原作小説

『十六夜膳房』は、2026年10月12日から日本テレビ系(毎週月曜深夜0時24分〜)で放送されるヒューマン・グルメ・ファンタジーです。主演を務めるのは中村蒼さん。原作は、中国の作家・毛無(マオ・ウー)さんによる小説『十六夜膳房』(毛無/ポプラ社)です。

原作は、中国のストーリー配信プラットフォーム「StoryBook」で「地獄膳房」シリーズとして連載された作品です。舞台となるのは、黄泉の世界にある膳房(厨房)。そこで「孟婆」の役目を担う主人公が、死者に「最後の一皿」を振る舞う物語が描かれます。2017年に中国で書籍化され、日本語版は2026年11月11日にポプラ社から上巻が刊行される予定です(下巻は2027年刊行予定)。

ドラマ版の舞台も、亡くなった人が死後に訪れる「黄泉の食堂」です。死者はそこで「人生で最も忘れられない料理」を注文し、孟婆は一皿の料理を通して、現世に残した後悔や未練を解きほぐしていきます。

原作者の毛無さんは、中国の医学部に在学していた頃、ICUで多くの人の最期に立ち会いました。その経験をもとに作品を執筆したと紹介されています。

死後の世界というと、どこか暗く、怖い場所を思い浮かべるかもしれません。しかし『十六夜膳房』で中心に置かれているのは「食」です。

誰かと囲んだ食卓、懐かしい味、忘れられない一皿。中国の死後の世界と紐づけながら、人と料理の記憶を描いているところが、この作品の大きな特徴です。

そしてタイトルにもつながる「孟婆」は、中国の死後の世界をめぐる伝承にも登場します。

孟婆とはどんな存在?中国の死後の世界で死者を送り出す存在

孟婆とはどんな存在?中国の死後の世界で死者を送り出す存在

孟婆(Mèngpó)は、中国の死後の世界をめぐる伝承に登場する存在です。

「婆」という字が使われているように、一般的には年老いた女性の姿で語られることが多く、死者が次の生へ向かう前に孟婆汤(Mèngpó tāng)を飲ませる存在として知られています。

ただし、孟婆がどのように生まれた存在なのかについては、さまざまな説があります。

たとえば、生前は過去や未来にとらわれず善行を重ねていた女性だったという説や、世の中の人々が死後も愛情や恨みにとらわれる姿を見て、記憶を消す役目を担うようになったという話があります。中国の伝説で知られる孟姜女(Mèng Jiāngnǚ)と結びつけて語られることもあります。

よく知られたこれらの伝承には、共通点があります。それが、死者に前世の記憶を手放させ、次の生へ送り出すという役割です。

そのため孟婆は、単に記憶を消してしまう怖い存在というより、この世と次の生の境目に立ち、死者を見送る存在と考えると分かりやすいかもしれません。

『十六夜膳房』でも、孟婆は死者を来世へ送り出す料理人として登場します。

記憶を消すスープ「孟婆湯」とは?なぜ前世を忘れるのか

記憶を消すスープ「孟婆湯」とは?なぜ前世を忘れるのか

孟婆汤(Mèngpó tāng)とは、中国の民間伝承で、死者が生まれ変わる前に前世の記憶を忘れるために飲むとされるスープです。

日本語では「孟婆湯」と書きますが、中国語では汤(tāng)がスープを意味します。迷魂汤(míhún tāng)という別名で呼ばれることもあります。

孟婆湯を飲んだ死者は、生前の出来事だけではなく、前世で抱えていた愛情や恨み、心残りなども忘れ、新しい生へ向かうと伝えられています。

たとえば、前世で深く愛した人との記憶、生きている間に果たせなかった約束、自分を傷つけた相手への恨み。このような感情をすべて持ったままでは、過去にとらわれてしまいます。

そこで孟婆湯を飲み、それまでの記憶に区切りをつけて新しい生へ向かう――伝承からは、そんな流れが読み取れます。

孟婆湯の話は長い時間をかけて語り継がれ、小説やドラマなど、現代の作品にもたびたび取り入れられてきました。

ただし、孟婆湯を飲むと、つらい出来事や恨みを忘れられる反面、大切な人や幸せだった時間まで忘れてしまいます。

忘れることは、新しい人生を始めるための区切りになる。その一方で、忘れたくない記憶まで手放さなければならない。

そんな二つの側面を持つ孟婆湯だからこそ、中国の物語のなかでも「記憶」や「別れ」の象徴として使われてきたのかもしれません。

『十六夜膳房』を知るうえでも、この「記憶」は重要なキーワードになりそうです。

『十六夜膳房』では孟婆が男性に|中国の伝承との違いは?

『十六夜膳房』では孟婆が男性に|中国の伝承との違いは?

中国の伝承で知られる孟婆は、一般的には年老いた女性として描かれます。

一方、ドラマ『十六夜膳房』の孟婆は、中村蒼さんが演じる男性の料理人です。黄泉の食堂を訪れた死者のために「最後の一皿」を作り、その魂を見送ります。

中国の伝承では、孟婆は死者に孟婆湯を飲ませ、前世の記憶を忘れさせる存在として知られています。

これに対してドラマ版では、死者が「人生で最も忘れられない料理」を注文し、孟婆がその一皿を振る舞います。

伝承は「忘れるための一杯」、ドラマは「忘れられない一皿」。ここに大きな違いがあります。

ただ、どちらにも「死者が現世との区切りをつけ、次へ向かう」という共通点があります。

孟婆という中国の伝承を知ったうえで作品を見ると、料理や記憶の描かれ方にも新しい発見がありそうです。

中国の死後の世界のしくみ|孟婆湯を飲むまでをざっくり解説

中国の死後の世界のしくみ|孟婆湯を飲むまでをざっくり解説

孟婆について調べていると、奈何橋や閻王、輪廻など、聞き慣れない言葉がいくつも出てきます。

中国の死後観には、仏教や道教、民間信仰など、さまざまな思想や伝承が重なっています。そのため、「中国では亡くなると必ずこの順番をたどる」という一つの決まった世界観があるわけではありません。

まず、死者の世界と結びつけて知られているのが阎王(Yánwáng)です。日本でいう「閻魔大王」にあたり、死者の生前の行いを裁く存在として知られています。

なお中国には、裁きを行う王が十人いるとする十殿阎王(shí diàn Yánwáng)という考え方もあります。閻王はそのうちの一人として数えられることもあり、どこまでを「閻王」と呼ぶかは語られ方によってさまざまです。

次に、奈何桥(Nàihé qiáo)です。死者が転生へ向かう道の途中にあると伝えられる橋で、忘川(Wàngchuān)という川に架かる橋として語られることもあります。

そして、その橋のたもとで死者に孟婆汤(Mèngpó tāng)を飲ませる存在が孟婆(Mèngpó)です。前世の記憶を手放した死者は、轮回(lúnhuí)、つまり輪廻へ向かうとされます。

大まかなイメージとしては、

「死を迎える → 冥界へ向かう → 生前の行いについて裁きを受ける → 転生へ向かう → 前世の記憶を手放す → 次の生へ」という流れです。

中国では、長い歴史のなかで宗教観や民間伝承、文学などが影響し合い、現在知られているイメージが形づくられてきました。そのため、物語によって閻王や孟婆などの描かれ方が異なることもあります。

『十六夜膳房』でも、ドラマ版の閻魔王は死者の人生を判定する存在ではなく、3,000もの「黄泉の食堂」を統括する、いわばエリアマネージャーのような人物として設定されています。

伝承で死者を冥界へ連れて行く使いとして知られる黒無常・白無常(黑白无常/Hēibái Wúcháng)も登場します。ドラマでは、黒無常が死者の魂を黄泉の食堂へ導く役割を担い、白無常はなんと食堂を仕切る白猫として描かれています。

中国文化をそのまま再現していると考えるより、伝承に登場する存在や死後観を下敷きにしながら、『十六夜膳房』ならではの世界を作り上げていると考えると分かりやすいかもしれません。

孟婆、閻王、奈何橋、輪廻。こうした言葉の意味を少し知っておくだけでも、ドラマの登場人物や世界観がぐっと理解しやすくなります。

孟婆・孟婆湯に関するよくある質問

孟婆湯とは何ですか?

中国の民間伝承で、死者が生まれ変わる前に前世の記憶を忘れるために飲むとされるスープです。愛情や恨み、心残りも忘れ、新しい生へ向かうと伝えられています。

孟婆湯は中国語で何と読みますか?

簡体字で「孟婆汤」と書き、ピンインは Mèngpó tāng です。汤(tāng)はスープという意味で、迷魂汤(míhún tāng)という別名もあります。

孟婆は男性ですか?女性ですか?

中国の伝承では、一般的に年老いた女性として語られます。ドラマ『十六夜膳房』では、中村蒼さんが演じる男性の料理人として描かれています。

『十六夜膳房』の原作は何ですか?

中国の作家・毛無(マオ・ウー)さんの同名小説です。「地獄膳房」シリーズとして連載され、2017年に中国で書籍化されました。日本語版はポプラ社から2026年11月に上巻が刊行予定です。

『十六夜膳房』の孟婆と伝承の孟婆は何が違いますか?

伝承の孟婆は孟婆湯で死者に記憶を忘れさせる存在ですが、ドラマの孟婆は死者が注文した「人生で最も忘れられない料理」を振る舞います。どちらも、死者が現世に区切りをつけて次へ向かうのを見送る点は共通しています。

まとめ|孟婆湯を知ると『十六夜膳房』の世界がより深く見えてくる

孟婆汤(Mèngpó tāng)は、中国の伝承で、死者が前世の記憶を手放し、次の生へ向かうために飲むとされるスープです。

『十六夜膳房』では、孟婆や閻魔王など中国の死後の世界を思わせる存在が登場し、物語の中心には「最後の一皿」があります。伝承を少し知ってからドラマを見ると、料理や登場人物に込められた意味にも、新しい発見があるかもしれません。

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suinai 中国語学習ライター・広告業界勤務 / Chinese Learning Writer & Marketing Professional
上海留学と北京の大学院進学を経て中国語を学んだライター。10年以上の学習経験と実体験をもとに、中国語学習や中国文化に関する情報を発信している。
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